でんでんむしの かなしみ

9年前に開かれた国際児童図書評議会における皇后美智子様のビデオ映像による基調講演「子ども時代の読書の思い出」は、多くの人に感銘を与えた。(中日新聞より)
そして、最後に子どもの読書について次のように結ばれた。

子どもたちが、自分の中に、しっかりとした根を持つために
子どもたちが、喜びと想像の強い翼を持つために
子どもたちが、痛みを伴う愛を知るために
・・・

人として、しっかりとした人生を充実した人生を送って欲しいと思うのは、親御さん方も教育に携わる私たちも同じです。そのために、私たちは今何ができるか?知識や技術の伝達にとどまらず、人間として生きる知恵や人に対する優しさを発揮し、自己肯定感を持ち、人から自分の存在が必要とされているという充実感を感じながら生きていけるよう、日々のかかわりの中から育つ援助に心がけたいものです。
絵本は、心の栄養です。情緒的な発達を援助するためにも、さまざまな絵本や物語に触れさせてあげたいものです。


ここに、新実南吉の「でんでんむしの かなしみ」をご紹介いたします。
一ぴきの でんでんむしが ありました。
 ある ひ、その でんでんむしは、たいへんな ことに きが つきました。
「わたしは いままで、うっかりして いたけれど、わたしの せなかの からの なかには、かなしみが いっぱい つまって いるではないか。」
 この かなしみは、どう したら よいでしょう。
 でんでんむしは、おともだちの でんでんむしの ところに やっていきました。
「わたしは もう、いきて いられません。」
と、その でんでんむしは、おともだちに いいました。
「なんですか。」
と、おともだちの でんでんむしは ききました。
「わたしは、なんと いう、ふしあわせな ものでしょう。わたしの せなかの からの なかには、かなしみが、いっぱい つまって いるのです。」
と、はじめの でんでんむしが、はなしました。
 すると、おともだちの でんでんむしは いいました。
「あなたばかりでは ありません。わたしの せなかにも、かなしみは いっぱいです。」
 それじゃ しかたないと おもって、はじめの でんでんむしは、べつの おともだちの ところへ いきました。
 すると、その おともだちも いいました。
「あなたばかりじゃ ありません。わたしの せなかにも、かなしみはいっぱいです。」
 そこで、はじめの でんでんむしは、また べつの、おともだちの ところへ いきました。
 こうして、おともだちを じゅんじゅんに たずねて いきましたが、どの ともだちも、おなじ ことを いうので ありました。
 とうとう、はじめの でんでんむしは、きが つきました。
「かなしみは、だれでも もって いるのだ。わたしばかりではないのだ。わたしは、わたしの かなしみを、こらえて いかなきゃ ならない。」
 そして、この でんでんむしは、もう、なげくのを やめたので あります。